WiiU「零~濡鴉ノ巫女~」のクリア後レビューです。ファーストインプレッションは酷いものでしたが、設定を変えてプレイしていくにつれて本作はやっぱり零だったんだなと感じました。なお本レビューはネタバレを多く含みます。
ゲームシステムについて
プラットフォームがWiiUに変わったことでゲームパッドに合わせたシステムに変更されました。
Aボタンで撮影できない。
大きな変更点として、Aボタンでシャッターが切れないという点があります。
撮影はZRボタンのみのため、昔からのプレーヤーは慣れるのに時間がかかるかもしれません。私は3章くらいまで慣れませんでした。
初期設定ではカメラのフォーカスがゲームパッドの動きと連動&ファインダーモードはゲームパッドの画面のみに表示される。
このためリアルなカメラのように撮影できるのが売りだと思うのですが、昔からのファンにはとっつきにくいかもしれません。ゲームパッドのジャイロ機能以外にスティックでも移動操作はできますが、どうやっても慣れませんでした。スティック操作でも変な加速がついてしまってプレイしづらいです。が、「オプションからジャイロを切りスティック操作のみに変更」すると一変。スティックのみの操作にすると、パッドを見る必要なく、画面に強化レンズやファイルが表示されるので撮影&戦闘できるようになります。これで以前までの操作と同じになり格段に操作しやすくなりました。
初回プレイ時に、操作方法の選択画面を出して、「WiiU操作」「以前からの操作」と選択させてくれていれば、ファーストインプレッションがあれほど最悪なものにはならなかったと思います。
高橋名人がとあるゲームのドライブシーンでフロントガラスが雨に濡れて操作しづらいのが「演出を優先して操作性が悪くなるのはダメ」とズバッと言い放ったことを思い出します。
本作はWiiUらしさを出しすぎて操作性を潰している印象を受けます。
残影
今回は屋外のフリーエリアがあるからか、道案内システムが導入されました。探している人や物の物証を使って人探しやモノ探しができる能力「残影」というシステムです。これによりどこにいけばいいか目的地がわからなくなったり、今何をすればいいのかを見失うことはなくなりました。一方でこの機能のおかげで探索することの精神的な自由性や難易度というのは格段に落ちていると思います。
看取り
今回の肝ともいえるシステムで、死者の生前の記憶を知る機能です。霊を倒したりひるませたりして近くに行くとZRボタンで看取りが可能になります。看取りに成功するとムービーが流れます。死に際の記憶なので、結構エグいシーンのものもありますが、零ファンならきっとどうってことは無いと思います。看取りのおかげで、今回の零は戦闘がよりアグレッシブになった印象を受けました。
水濡れ
水に濡れると敵とのエンカウントが高まる代わりに攻撃力が上がる、という水濡れは本作の新システムでしたが、中盤から常時濡れてしまってる状態になるのはいかがなものかと思いました。
ここぞという時に濡れてしまうというのが緊張感があるのに、常に濡れちゃってたら緩急がつかないですから、せっかくの新システムがもったいないなぁと思いました。濡れてると服が透けるのでちょっとだけテンションはあがりましたけどねw私的に濡れすぎでHPゲージが削られていくという自体は殆どなかった(数回程度)です。ラスボスも水濡れ攻撃するのかなぁ。掴まれても水濡れなかったし。
ゴーストハンドの存在
本当に無駄機能だと思うんですが、ホラー慣れしてない人にはびくっと来て楽しいのかなぁと思ったり。私的には怖くもないしめんどくさいだけなので消して欲しい機能です。
ストーリーについて
今までの零も土着信仰のじめっとした因習と民族学的な要素とを絡めてのストーリーが展開されていましたが、本作はよりその要素が強くなった、というか実際の風習や謂れの組み合わせ方が絶妙だな、と感じました。
マレビト信仰(旅人など部落外からの訪問者を神の化身とする信仰)をもつ地方で、マレビト(神の化身)と即身仏(生きながら死んで仏になること)となった巫女とを結ぶ幽魂(いわゆる冥婚だが通常の冥婚は死者同士の結婚をさすのに対し、本作の幽魂はマレビトという生者と即身仏となった巫女と契を交わした後、マレビトも即身仏の箱に入れられる)の儀式という組み合わせは、プレイしていてそうくるかぁとワクワクが止まりませんでした。
死に顔を写す風習に冥婚とムカサリ絵馬とをつなぎ合わせてくる流れも全く違和感なく、しかも絵馬の飾っている部屋の風景なども実在する神社の絵馬と同じ風景で思わず笑みがこぼれてしまいました。(普通こんなところで笑うのは異常なのかもしれませんが「いないいないばあ」で笑う幼児と同じ思考回路に陥っていたのでしょう。)即身仏や絵馬のところから舞台は山形・岩手・青森山中あたりになるんですかね。(ちなみにラストの鳥居をみて厳島神社を想像するかもしれませんが、水の上に立つ鳥居は意外に各地に点在しています。)
零シリーズは民俗学要素が今までもありましたが、どちらかと言うとエッセンスとして混じっていて、メインとなる儀式などはオリジナルであるところでしたから、ここまでいろいろなものを混ぜてメインの儀式に絡ませてきた本作は、かなり異端だと思いました。人によってはその分、想像の余地が狭まるというのも感じるかもしれませんが、私は十分に楽しめました。
その他
プレイ初期にグラが異常に綺麗だったので、軽く引いたのですが、グラがかなり綺麗だったのは序盤くらいで、その後の章はいい感じに落ち着いていました。水は相変わらずどこも綺麗でしたが・・・まぁ山の水ですし、彼岸湖から流れ込んでいるのなら、ある程度綺麗で循環されているのかもしれませんね。
最後までひっかかっていたのは霊がしゃべりすぎることです。生きている人間のように語りかけてくる霊は、恐怖の対象では無いと思います。あの人、実は死んでいたの?みたいな振りで利用するのであればOKだと思いますが、マヨイガの老婆なんかはどう考えても死んでる人なのはわかりきってますし、移動している姿だけ見せとけばよかったので会話の必要性はないかと。
本作は敵味方ともに服装が日本ぽくない印象でした。どちらかというと大陸系、中華くさいです。敵の頭巾や冠なんかは特に。もちろん、日本には多くの大陸系文化というのは入っていますしかつての朝廷の服装であれば、そういう雰囲気なのもありかとは思います。が、日本家屋の中で中華風を着飾るというのは違和感アリアリです。本作は民族学的な風習によりリアリティが詰められているだけに、大陸系服装とのミスマッチが強調され残念でした。
あと、章ごとに部屋に戻っているのだからそこで着替えれても良かったのではと。コスチュームが攻略の特典になっているのはわかりますが、数点は最初から用意しておいて部屋で着替えるような形にシステム変更していればより自然かと感じました。今作は零のシステムが結構変わっているわりに、着替え部分だけ昔からの名残があるのは面白い点ですね。
服装については本作の特徴の一つである水にぬれるという演出はいいなと思いました。できれば着替えもそうですが、服が汚れて行ったり、廃屋の探索ではホコリが舞うようなシーンがあればよりリアリティが増すと思います。カメラに水滴がつくなどに演出が見られたので、ホコリが待っている時に撮影するとオーブのように写ったりすればきれいな写真ができそうです。
「水」をテーマにした恐怖、として、私が真っ先に思い浮かんだのはザーザー降る雨ではなく「ポタっと落ちる水滴の音」でした。が、本作ではそのようなシーンは見当たりませんでした。無音の空間の中、ポタっと落ちる水滴の音、ふと振り返ると水に濡れた霊が!というシーンを期待してました、が残念です。
水滴もそうですがホラーでは「音が無い」という演出はすごく大事だと思います。音が消える空間というのは、もう不安と恐怖ですよ。本作は1箇所だけその場面に出くわしました。日本人の感覚の一つに「間」というものがあります。かつて世阿弥も唱えた「せぬ間」こそ、ホラーにもっと取り入れられるべきだと思います。
総評として面白いです。
特に今までより一層、民族学的下地を含んだ本作はそっち系が好きな人はたまらないかと。ただホラーゲームとしての怖さは薄れていると思います。というか任天堂ハードになって怖さはどんどん薄れているような……。
個人的にホラーとスプラッタは違うとは思いますが、看取りがある分、今回はスプラッタ色が少々強いのかもしれません。といってもそれほどでもありませんね。
ガチでスプラッタを高めるならマレビトを食べてしまうという展開もありかとも思います。かつてのパプアニューギニアの食人でも、食べることでそのものの力を得るという思想があり偶然分け入った白人などがターゲットにされることもあったようです。(ロックフェラーの息子も食人族に食べられたなんていう話もまことしやかに語られたり)さすがにこの辺までぶっ込むと、かまいたち2の二の舞いとして批判する人も現れる可能性があるかもしれませんし、このくらいで良かったのかもしれませんが、私としてはホラーと見れば弱いと思いました。
全体的に戦闘が多いのも本作の特徴で、結果アクション要素が強くなった分、ホラー的では無くなったのかもしれません。リザルトで毎回所持品がリセットされるのも初級者向けというよりアクション要素を強めても大丈夫、というノリの結果だったのかもと思ってしまいます。
ゲームとしては面白い、ホラーゲームとしてはもう一歩。
次回作は是非、原点回帰でがっつりホラーっぽさを出してもらいたいですね。