「NHKにようこそ!」にやられて、思わず買ってしまった本作。
今回も一気に読破していた。
これは私には極めて珍しい。
年5冊もない気がする。
牛肉を万引きした帰り道、雪道に体育座りの少女と遭遇。するうちチェーンソーを振りかざす男が現れ少女と格闘が始まる。
現実世界(勉強)から逃走するように主人公は少女と共にチェーンソー男と闘争することに(ただし何も出来ないので少女のアッシー&見守りのみ)。
チェーンソー男との戦いの日々が続く中、主人公の引越しが決まる。
その日を境にチェーンソー男の強さが増していく・・・。
!!ネタバレ注意!!
唐突にチェーンソー男が現れ、淡々と物語が進んでいくところがなんともおかしい。
もっと驚けよ、主人公!
と突っ込みを入れられずにはいられない。
冒頭、ヒロインの少女絵里がチェーンソー男と戦う理由が語られるのだが、その理由もまた強烈。
チェーンソー男と初めて会ったとき、運動神経がよくなり
「戦う力が付いたのと一緒に、わかったの。
あいつはすごい悪者で、あたしはあいつの天敵なの。
そう、ピンときたのよ。
・・・だからあたしは戦わなきゃならないの」
と決意したとのこと。
素敵です。
もっともこの作品、チェーンソー男との闘争の日々を書いた作品ではもちろん無い。
むしろ、かなり「ないがしろ」にされている。
重きを置かれているのはあおーい青春時代の物語である。
NHKにようこそ!でもそうだが、主人公が自分自身の心に(とりわけ恋愛沙汰に)対して気が付かない設定で描かれている。
それが妙にもどかしく、あぁ青春物だなぁとしみじみ感じる。
青春物といえば、恋愛物を交えてストーリーが展開されることが多いが(日本のドラマなんかはほとんどがそんな感じだが)それを前面に出さないところが返って、意識して読んでしまうところはうまいなぁと感じた。
作中、こんな言葉が出てくる。
「いいか、できるだけ抽象的な言葉を使って、
難しげな詞を書け。そうすれば視聴者の方々は、
勝手に不可読みしてありがたがってくれる」
これは、主人公の友人が亡くなった友人にバンドの歌詞を頼んだときに出したアドバイスだ。
著者の滝本竜彦さんはエヴァンゲリオンの信者らしい。
そういえば以前、庵野監督が衒学的に書いておけば、視聴者は謎を解こうとするというようなことを言っていた事を思い出す。
振り返り、作品を見ると、この中で最大の謎はやはりアメリカンテイストあふれるチェーンソー男である。
何の目的で出てきたのか最後まで明かされることは無い。
物語の中盤からそれらしい内容はちらほらと出てきて、それにあわせて本書のタイトルの意味が見えてくるわけだが、それでも登場人物の口から語られることは無い。
最終的にチェーンソー男は消え、主人公は街に残り、ヒロインと付き合うようなそぶりを見せ物語は終わる。
悪の象徴としてのみチェーンソー男が存在する。
いわく、主人公が引っ越すのもチェーンソー男のせいなのだと。
(NHKにようこそ!でもこの流れが引き継がれている。)
本作は第5回角川学園小説大賞特別賞を受賞している。
私はこの作品が学園物かと聞かれるとやや首をかしげざるを得ないが、青春物としては本当に面白い作品でおすすめだと思う。
●角川学園小説大賞 受賞履歴
※追記
この作品、後に映画化される。
むろん、私は観に行った。
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